セミトレーリングアーム式サスペンション解説

セミトレーリングアーム式サスペンション解説

車のことを知りたい

先生、「セミトレーリングアーム式サスペンション」って、トレーリングアーム式とどう違うんですか?

車の研究家

良い質問だね。トレーリングアーム式は揺動軸が車体横軸とほぼ平行なのに対し、セミトレーリングアーム式は斜めに配置されているのが大きな違いだよ。この配置の違いが乗り心地や走行性能に影響するんだ。

車のことを知りたい

斜めにすることで何が変わるんですか?

車の研究家

旋回時のタイヤの動きが変わるんだ。セミトレーリングアーム式だと、旋回中に少し車体が浮き上がるような動きになる。この動きを利用して、車の曲がりやすさ(アンダー・オーバーステア特性)を調整できるんだよ。

セミトレーリングアーム式サスペンションとは。

車のパーツである『セミトレーリングアーム式サスペンション』について説明します。これは、タイヤを支える部品のひとつで、独立して動くようになっています。トレーリングアーム式という部品を改良したもので、揺れ動く軸を斜めに配置することで、車体を支える部品をV字型にすることができます。このおかげで、上下左右の動きをしっかりと支えることができ、ばねを取り付けるのも簡単になります。動力を伝える車軸にも、そうでない車軸にも使うことができ、車の浮き沈みも抑えることができます。ただし、この斜めの軸の配置のために、旋回時に少し浮き上がる性質があり、車の曲がり具合に影響を与えます。この性質を利用して、車の曲がりやすさを調整することができます。1960年代からBMWがよく使い、メルセデス・ベンツなど他の車にも広まりました。高級な後輪駆動車の定番でしたが、今ではもっと自由に設計できるマルチリンク式に置き換えられつつあります。

構造の特徴

構造の特徴

車は、路面からの衝撃を和らげ、滑らかな動きを実現するために、ばね機構が欠かせません。そのばね機構を支え、車輪の位置を的確に保つのが、今回取り上げる「半後方腕式」と呼ばれる仕組です。これは、左右の車輪がそれぞれ独立して上下に動く「独立懸架方式」の一種であり、片側の車輪が段差を乗り越えても、反対側の車輪への影響を少なくできるため、乗り心地と運転の安定性を向上させる効果があります。

半後方腕式の特徴は、車輪を支える腕の形と取り付け方にあります。「後方腕」と呼ばれる腕で車輪を支えるのですが、この腕を車体に固定する軸が、車体の幅方向に対して斜めに、外側に向けて取り付けられています。この斜めの取り付け方が、この仕組の肝です。

車体の骨格の一部である「補助骨格」は、多くの場合、アルファベットの「V」字のような形をしています。この補助骨格に、二股に分かれた「鳥の叉骨型」と呼ばれる腕が取り付けられています。この形は、横方向の動きもしっかり支えられる上に、ばねを取り付けるのも簡単という利点があります。

後方腕が斜めに取り付けられていることで、車輪が上下に動いた際に、車輪が少し内側に傾く動きが生まれます。この動きは、旋回時に車体が外側に傾こうとする力に対抗し、車体を安定させる効果を生み出します。また、二股に分かれた鳥の叉骨型の腕を用いることで、車輪の位置決め精度が向上し、より安定した走行性能につながります。

このように、半後方腕式は、乗り心地と運転の安定性を両立させる工夫が凝らされた、優れた仕組と言えます。

項目 説明 メリット
方式 独立懸架方式の一種である半後方腕式。後方腕を車体に斜めに固定。 片側の車輪が段差を乗り越えても、反対側の車輪への影響が少ない。乗り心地と運転の安定性が向上。
後方腕の固定 車体の幅方向に対して斜めに、外側に向けて取り付けられている。 旋回時に車体が外側に傾こうとする力に対抗し、車体を安定させる。
補助骨格と腕の形 V字型の補助骨格に、二股に分かれた「鳥の叉骨型」の腕が取り付けられている。 横方向の動きもしっかり支えられる。ばねの取り付けが簡単。車輪の位置決め精度が向上し、安定した走行性能につながる。

駆動方式への適用

駆動方式への適用

車は、その動きを支えるために様々な仕掛けが備わっています。その一つに、車輪を車体につなぐ部品であるサスペンションがあります。サスペンションには色々な種類がありますが、その中で「半ば引きずる腕型」と呼ばれる形式のものがあります。この形式は、駆動する車軸と駆動しない車軸、どちらにも使うことができます。

駆動する車軸に取り付けた場合、アクセルを踏んで加速する時に車体後部が沈み込む現象が起きます。これは、まるで車がしゃがむような動きに見えるため「しゃがみ込み」と呼ばれています。反対に、駆動しない車軸に取り付けた場合は、ブレーキを踏んで減速する時に車体前部が沈み込む現象が起きます。これは、まるで車が飛び込むような動きに見えるため「飛び込み」と呼ばれています。

「半ば引きずる腕型」はこの「しゃがみ込み」と「飛び込み」をうまく調整するように設計されています。回転軸の置き場所や腕の形を変えることで、「しゃがみ込み」や「飛び込み」の大きさを調整することができるのです。

例えば、回転軸を車体の中心線に近づけることで、「しゃがみ込み」を少なくすることができます。また、腕を水平に近づけることで、「飛び込み」を少なくすることができます。このように、「しゃがみ込み」と「飛び込み」を調整することで、乗っている人が快適に感じる乗り心地と、運転する人が安心して操作できる高い操縦性を両立させているのです。

これらの調整は、車の大きさや重さ、エンジンの出力特性など、様々な要素を考慮して行われます。それぞれの車に最適な「しゃがみ込み」と「飛び込み」の量を見つけることで、より安定したスムーズな走行を実現することができるのです。

項目 説明
サスペンションの種類 半ば引きずる腕型
駆動軸への取り付け 加速時「しゃがみ込み」発生
非駆動軸への取り付け 減速時「飛び込み」発生
調整方法 回転軸の位置、腕の形状
回転軸の位置変更 中心線に近づける → しゃがみ込み減少
腕の形状変更 水平に近づける → 飛び込み減少
調整の目的 乗り心地と操縦性の両立
調整の考慮事項 車の大きさ、重さ、エンジンの出力特性など

旋回時の特性

旋回時の特性

車は曲がる時、様々な力が働いて複雑な動きをします。その動きを左右する要素の一つに、車輪を支える仕組であるサスペンションがあります。中でも、セミトレーリングアーム式サスペンションは、旋回時に独特な振る舞いを見せることで知られています。

このサスペンションは、旋回中に横方向から力が加わると、車輪が少し浮き上がる現象を起こします。この現象は「リフト」と呼ばれ、サスペンションの揺れ動く軸が斜めに配置されていることが原因です。このリフトの大きさを変えることで、車の旋回特性を調整することが可能になります。旋回特性とは、車がどのように曲がるかを示すもので、大きく分けて「アンダーステア」と「オーバーステア」の二種類があります。

アンダーステアとは、ハンドルを切った角度よりも車が外側に膨らんでしまう現象です。例えば、右にハンドルを切ったのに、思ったよりも車が右に曲がらず、外側に膨らんでしまう状態です。運転操作に対して車が鈍く反応するように感じられ、カーブを曲がり切れずにコースアウトする危険性があります。一方、オーバーステアはアンダーステアとは逆に、ハンドルを切った角度よりも車が内側に切れ込んでしまう現象です。右にハンドルを切った際に、車が思ったよりも鋭く右に曲がり、スピンしてしまう可能性があります。この状態では、運転操作に対して車が過敏に反応するように感じられ、急な方向転換が必要な場面では有効ですが、制御が難しく、スピンに繋がる危険性も高くなります。

セミトレーリングアーム式サスペンションは、このリフト効果を調整することで、アンダーステアやオーバーステアといった旋回特性を制御し、設計者が意図した通りのハンドリングを実現することができます。リフト効果が大きいとアンダーステア傾向になり、小さいとオーバーステア傾向になります。この特性を理解し、適切に調整することで、安定した走りやスポーティーな走りなど、様々な運転感覚を作り出すことができます。そのため、セミトレーリングアーム式サスペンションは、車の個性に合わせてハンドリングを調整する上で重要な役割を果たしています。

サスペンションの種類 リフト 旋回特性 ハンドリング 危険性
セミトレーリングアーム式 大きい アンダーステア 鈍い コースアウト
小さい オーバーステア 過敏 スピン

歴史と採用事例

歴史と採用事例

セミトレーリングアーム式サスペンションは、1960年代に西ドイツの自動車製造会社であるビーエムダブリュー社が好んで使用するようになり、広く知られるようになりました。その当時、主流であったスイングアクスル式サスペンションは、車体が大きく傾斜する際にタイヤが地面と垂直を保てなくなる欠点がありました。これに対して、セミトレーリングアーム式サスペンションは、車輪を斜めに支持する構造により、この問題を解消しました。

その後、ダイムラー・ベンツ社もスイングアクスル式からセミトレーリングアーム式へと変更し、高級車を中心に多くの自動車で採用されるようになりました。後輪駆動車にとってはこの方式が基本形と言えるほど普及したのです。セミトレーリングアーム式サスペンションは、構造が簡素で製造費用を抑えられること、乗り心地と操縦安定性のバランスが良いことが特長でした。そのため、長い期間にわたって多くの車種で支持されてきました。

しかし、技術の進歩とともに、より高度な多連桿式サスペンションが登場しました。多連桿式サスペンションは、複数の棒状の部品を組み合わせることで、車輪の位置や動きを細かく制御できます。この方式は、路面状況に合わせてより精密な調整が可能になるため、走行性能と乗り心地をさらに向上させることができます。設計の自由度も高く、様々な車種に対応できることも利点です。

近年では、高い走行性能が求められる自動車が増えたことから、多連桿式サスペンションが主流になりつつあります。セミトレーリングアーム式サスペンションは、簡素な構造と費用対効果の高さという利点があるものの、多連桿式サスペンションの進化と普及によって、徐々にその座を譲りつつあると言えるでしょう。

サスペンションの種類 特徴 メリット デメリット 採用状況
スイングアクスル式 車体傾斜時にタイヤが地面と垂直を保てない 車体傾斜時の不安定性 1960年代以前に主流
セミトレーリングアーム式 車輪を斜めに支持する構造
構造が簡素
製造費用が安い
乗り心地と操縦安定性のバランスが良い
1960年代以降、後輪駆動車の基本形として普及
現在では徐々に減少
多連桿式 複数の棒状部品で車輪の位置や動きを細かく制御 路面状況に合わせて精密な調整が可能
走行性能と乗り心地の向上
設計の自由度が高い
近年主流になりつつある

長所と短所

長所と短所

セミトレーリングアーム式サスペンションについて、その利点と欠点を詳しく見ていきましょう。まず、この方式の大きな利点は、構造が簡素であることです。部品数が少なく、組み立てが容易なため、製造にかかる費用を抑えることができます。また、部品が少ないということは、車体全体の軽量化にもつながり、燃費の向上にも貢献します。さらに、駆動する車輪にも駆動しない車輪にも使える汎用性の高さも魅力です。前輪駆動車、後輪駆動車どちらにも対応できるため、様々な車種で採用されています。

一方で、セミトレーリングアーム式には欠点もあります。例えば、車がカーブを曲がるときに、車体が傾き、タイヤが路面から浮き上がろうとする力が働きます。この現象をリフト効果と呼びますが、セミトレーリングアーム式ではこのリフト効果の影響を受けやすいという難点があります。このため、路面とタイヤの接し方が変化しやすく、運転の安定性に影響が出る場合があります。また、サスペンションの調整の幅が狭いこともデメリットです。より複雑な構造を持つマルチリンク式サスペンションに比べると、車の動きを細かく調整することが難しいのです。

これらの欠点を改善するために、マルチリンク式サスペンションが登場しました。マルチリンク式は、複数の部品を組み合わせることで、車体の動きをより精密に制御できます。現在では多くの車に採用され、快適な乗り心地と安定した走行性能を実現しています。セミトレーリングアーム式は、シンプルな構造によるコストの低さと汎用性の高さが魅力ですが、一方で走行性能の面で限界があるため、より高度な制御を求める車種ではマルチリンク式が主流となっています。

項目 セミトレーリングアーム式
利点 構造が簡素
軽量化
汎用性が高い
欠点 リフト効果の影響を受けやすい
調整の幅が狭い

まとめ

まとめ

乗用車における路面からの衝撃を吸収し、車輪を路面に保持する重要な部品、それがサスペンションです。数ある方式の中でも、かつて一世を風靡した形式の一つにセミトレーリングアーム式があります。この方式は、独立懸架方式の一種であり、左右の車輪が独立して動くことで、片側の車輪が受ける衝撃がもう片側に伝わりにくく、乗り心地の向上に貢献します。

セミトレーリングアーム式の特徴は、トレーリングアームと呼ばれる棒状の部品を、車体の幅方向に対して斜めに配置している点にあります。この斜めの配置が、車輪の上下動と前後動を同時に制御することを可能にしています。具体的には、V字型の補助枠と鳥の翼のような形をしたウイッシュボーン型アームを組み合わせることで、車輪の横方向の動きを安定させ、同時にコイルばねを取り付けやすくしています。

このセミトレーリングアーム式サスペンションは、駆動輪、非駆動輪のどちらにも使える汎用性の高さが利点です。また、加速時の車体後部の沈み込み(スクォット)や、制動時の前部への沈み込み(ノーズダイブ)といった挙動も適切に制御できます。さらに、旋回時には車体が少し浮き上がる独特の効果があり、これによって車の旋回特性(アンダーステアやオーバーステア)を調整することが可能です。

1960年代に登場したこの方式は、当時としては画期的なもので、多くの車に採用されました。しかし、時代と共に技術は進歩し、現在ではより設計の自由度が高いマルチリンク式サスペンションが主流となっています。マルチリンク式は複数の部品を組み合わせることで、より緻密な制御を可能にしています。シンプルな構造で費用を抑えられることがセミトレーリングアーム式のメリットでしたが、旋回時の路面への接地性の変化や、調整の自由度が低いことがデメリットとなり、現在では採用される機会が少なくなっています。

自動車技術は常に進化を続けており、サスペンションも例外ではありません。乗り心地、操縦安定性、安全性など、様々な要素を考慮した上で、最適なサスペンションが選ばれています。車を選ぶ際には、サスペンションの種類にも目を向けることで、より自分の好みに合った一台を見つけることができるでしょう。

項目 内容
種類 セミトレーリングアーム式
方式 独立懸架方式
構造 トレーリングアームを車体幅方向に対して斜めに配置
V字型補助枠 + ウイッシュボーン型アーム
コイルばね取り付け容易
特徴 車輪の上下動と前後動を同時に制御
駆動輪、非駆動輪どちらにも使用可能
スクォット、ノーズダイブ抑制
旋回時に車体が少し浮き上がる
メリット シンプルな構造で費用を抑えられる
デメリット 旋回時の路面への接地性の変化
調整の自由度が低い
その他 1960年代に登場し、多くの車に採用
現在はマルチリンク式が主流