車とアスベスト:過去、現在、そして未来
アスベストは、自然界に存在する繊維状の鉱物で、日本では石綿とも呼ばれています。主な成分はケイ酸マグネシウムで、この成分のおかげで熱に強く、丈夫な性質を持っています。かつては、この優れた特性を生かして、様々な製品に利用されていました。特に、自動車業界では、ブレーキやクラッチといった摩擦に耐える部品に不可欠な材料でした。
ブレーキを踏むと、パッドとディスクが擦れ合って大きな熱が発生しますが、アスベストはその熱に耐え、ブレーキの性能を安定させる役割を果たしていました。また、クラッチはエンジンの回転をタイヤに伝える際に、滑らかに繋いだり切ったりする役割を担いますが、ここでもアスベストの耐摩擦性が活かされていました。
しかし、アスベストには重大な欠点がありました。それは、アスベストの繊維が非常に細かく、目に見えないほどだということです。この微細な繊維は、空気中に漂いやすく、知らず知らずのうちに私たちの肺の奥深くまで入り込んでしまうのです。そして、長期間にわたってアスベストを吸い込むと、肺がんや中皮腫といった深刻な病気を引き起こすことが明らかになりました。これらの病気は、発症までに長い年月を要し、治療が難しい場合が多く、アスベストの危険性が広く認識されるようになりました。
現在では、アスベストの使用は厳しく規制されており、自動車のブレーキやクラッチにもアスベストは使われていません。代わりに、有機繊維や金属繊維などを組み合わせた新しい材料が開発され、安全性と性能を両立させています。かつては便利な材料として重宝されたアスベストですが、その危険性ゆえに、現在では使用が避けられているのです。