ビスカストランスミッション:滑らかな走りを実現する技術

ビスカストランスミッション:滑らかな走りを実現する技術

車のことを知りたい

先生、「ビスカストランスミッション」って、普通の四輪駆動と何が違うんですか?

車の研究家

いい質問だね。ビスカストランスミッションは、普段は前輪だけで走っていて、滑りやすい路面などで前輪が空回りした時に、自動的に後輪にも力を伝える仕組みだよ。自転車で言うと、滑りやすい道を進む時に、前輪だけでなく後輪も地面を蹴って進むようなイメージだね。

車のことを知りたい

なるほど。でも、オフロード車には向かないって書いてありましたが、どうしてですか?

車の研究家

それは、ビスカストランスミッションは、後輪に伝える力が少し弱いからなんだ。オフロード車は、でこぼこ道を力強く走る必要があるけど、ビスカストランスミッションでは、十分な力を伝えられないことがあるんだよ。

ビスカストランスミッションとは。

『ビスカストランスミッション』という車の用語について説明します。これは、動力を伝えるための部品である『ビスカスカップリング』を使って、動力の伝達装置として働くものです。たとえば、前輪駆動の車を四輪駆動にする場合、後ろの車軸の途中にこの装置を置いて、後ろのタイヤを駆動させます。このような場合に、この装置をビスカストランスミッションと呼びます。この四輪駆動システムは、路面の状態に合わせて、タイヤの回転の差を調整する機能と、その差を制限する機能を自動的に切り替えることができます。そのため、四輪駆動の操作に慣れていない人でも簡単に扱えるため、変速機が少ないタイプの四輪駆動車に使われています。ただし、動力を伝える力は機械式の装置に比べて弱いため、悪路を走る車には適していません。また、ビスカスカップリングをタイヤの回転の差を制限するために使う場合は、『ビスカスデフ』と呼ばれます。

仕組み

仕組み

車は、滑らかに動くために様々な工夫が凝らされています。ビスカストランスミッションもその一つで、滑らかな走りを生み出すための技術です。この技術の心臓部には、ビスカスカップリングと呼ばれる部品が採用されています。

ビスカスカップリングは、密閉された容器の中に特殊な油と、薄い金属の板が何枚も重ねて入っています。この油は、シリコンオイルと呼ばれる特殊なもので、ねばねばとした性質を持っています。薄い金属板は、入力側と出力側に交互に繋がっていて、普段は油の粘り気によって動力は伝わらないようになっています。

車が走り出すと、前輪と後輪は同じ速さで回転します。しかし、例えば凍った路面やぬかるんだ道など、路面の状態が悪くなると、前輪と後輪の回転速度に差が出てきます。前輪が空回りする時などは、前輪の回転が速くなり、後輪との回転速度の差が大きくなります。

この時、ビスカスカップリングの中で金属板の間の油が激しくかき混ぜられることになります。すると、油の粘り気が増し、抵抗が大きくなります。この抵抗によって、前輪から後輪へ動力が伝わるようになります。

このように、ビスカスカップリングは、前輪と後輪の回転速度の差を感知し、自動的に四輪駆動状態を作り出すことができるのです。これにより、ドライバーは特別な操作をすることなく、滑りやすい路面でも安定した走行を続けることができます。まさに、縁の下の力持ちと言えるでしょう。

仕組み

横置きエンジン車への応用

横置きエンジン車への応用

横置きエンジン車は、エンジンを車幅方向に配置することで、車室空間を広く取れる利点があり、多くの乗用車に採用されています。この横置きエンジン車に四輪駆動システムを組み込む際に、ビスカス式動力伝達装置、通称ビスカストランスミッションが有効な手段となります。ビスカストランスミッションは、粘度の高い流体(シリコンオイルなど)を封入したカップリングを用いて、前後輪への駆動力を配分する機構です。

横置きエンジン車の場合、前輪を駆動輪とする前輪駆動が一般的です。ここに四輪駆動システムを追加しようとすると、エンジンの出力を取り出して後輪にも伝える機構が必要になります。この機構としてビスカストランスミッションが採用されるケースが多く見られます。具体的には、後輪側の駆動軸の中間にビスカスカップリングを配置します。通常走行時は前輪駆動で走行し、雪道やぬかるみなどで前輪が空回りした場合、前輪と後輪の回転差が生じます。この回転差によってビスカスカップリング内部の流体が攪拌され、発熱することにより粘度が増加します。粘度が増加すると、カップリング内の羽根車が抵抗を生み出し、前輪の駆動力の一部が後輪に伝達されます。このようにして、比較的簡素な構造で四輪駆動を実現できるのが、ビスカストランスミッションの利点です。

電子制御などを必要としないため、機構が単純で、製造コストや整備費用を抑えられる点もメリットです。また、前輪の空回りを検知して自動的に後輪へ駆動力を配分するため、運転操作が容易で、特別な操作を必要としません。滑りやすい路面でも安定した走行を支援し、ドライバーの負担を軽減します。

一方で、反応速度はやや遅く、急な路面変化には対応が遅れる場合もあります。また、常に前後の回転差を監視しているため、燃費が若干悪化する可能性も考えられます。しかし、横置きエンジン車に四輪駆動システムを導入する際の有効な手段として、ビスカストランスミッションは現在も広く利用されています。

自動的な駆動力配分

自動的な駆動力配分

ビスカストランスミッションは、機械的な仕組みを用いて前後の車輪への力の配分を自動的に調整する、画期的な装置です。これは、粘度の高い特殊なオイルが封入された容器の中で、複数の薄い金属板が重ねられた構造をしています。この金属板は、前輪と後輪につながる軸にそれぞれ交互に固定されています。

通常、乾燥した舗装道路を走る時など、前後の車輪の回転速度に差がない場合は、金属板は滑らかに回転し、ほとんど抵抗を生み出しません。このため、駆動力は主に前輪に伝わり、燃費の向上に貢献します。二輪駆動と同様の効率的な走行が実現するのです。

一方、雪道やぬかるみなどで前輪が空回りし始めると、前輪と後輪の回転速度に差が生じます。この時、金属板の間のオイルが強い抵抗を生み出し、回転速度の速い前輪の力を、回転速度の遅い後輪へ伝えるようになります。これにより、四輪駆動と同じように、安定した走行と高い走破性が確保されます。ドライバーが意識的に操作しなくても、状況に応じて自動的に駆動方式が切り替わるため、運転の負担を軽減し、安全性を高めることができるのです。

ビスカストランスミッションは、このように複雑な制御装置や電子部品を必要とせず、機械的な仕組みだけで駆動力の配分を自動的に調整することができます。このシンプルな構造は、故障のリスクを低減し、整備の手間を省くことにもつながります。また、滑らかな駆動力の切り替えにより、スムーズで快適な乗り心地を実現している点も大きな利点と言えるでしょう。

このように、ビスカストランスミッションは、燃費の良さ、走破性の高さ、そして運転のしやすさを兼ね備えた、優れた駆動方式と言えるでしょう。特に、運転技術に自信のない方や、様々な路面状況で運転する機会が多い方にとって、心強い味方となるはずです。

状態 前輪と後輪の回転速度 金属板の挙動 駆動力配分 結果
乾燥した舗装道路など 差がない 滑らかに回転、抵抗が少ない 主に前輪 二輪駆動と同様の燃費効率
雪道やぬかるみなど 差がある(前輪が空回り) オイルが強い抵抗を生じる 前輪から後輪へ 四輪駆動と同様の走破性

初心者向け四輪駆動システム

初心者向け四輪駆動システム

初めて四輪駆動の車に乗る方にとって、色々な仕組みがあるのは難しく感じるかもしれません。色々な種類がある中で、ビスカス継ぎ手を使った四輪駆動システムは、初心者の方にもお勧めできる、とても使いやすい仕組みです。

このシステムは、普段は前輪か後輪どちらかだけに動力が伝わっていて、滑りやすい路面やでこぼこ道などでタイヤが空転し始めると、自動的に前後のタイヤへ適切な動力が配分される仕組みになっています。難しい操作は一切不要で、運転に慣れていない方でも、雪道やぬかるみなどで安心して運転することができます

ビスカス継ぎ手の中身は、平たい円盤が何枚も重ねられたような構造で、特殊な油が満たされています。タイヤが空転を始めると、その回転差によって油の粘り気が変化し、動力が反対側のタイヤにも伝わる仕組みです。機械的な制御ではなく、油の粘度変化を利用しているため、反応が滑らかで自然な運転感覚を実現しています。

さらに、ビスカス継ぎ手を使った四輪駆動システムは、構造がシンプルなのも大きな利点です。部品点数が少ないため、故障のリスクが低く、定期点検などの維持管理も比較的簡単で費用も抑えられます。

このように、特別な操作を必要とせず、滑らかで安定した走りを実現し、維持管理も容易なビスカス継ぎ手を使った四輪駆動システムは、普段使いの四輪駆動車には理想的なシステムと言えるでしょう。雪道や悪路を安全に走破したい、でも複雑な操作はしたくないという方には、ぜひお勧めしたい技術です。

特徴 説明
動作原理 ビスカス継ぎ手内部の特殊な油の粘度変化を利用して、タイヤの空転時に自動的に前後のタイヤへ適切な動力が配分される。
メリット
  • 初心者にも優しい操作不要の自動制御
  • 滑らかで自然な運転感覚
  • シンプルな構造で故障リスクが低く、維持管理が容易
構造 平たい円盤が何枚も重ねられた構造で、特殊な油が満たされている。
推奨状況 雪道や悪路を安全に走りたいが、複雑な操作はしたくない方

オフロード車への不向きさ

オフロード車への不向きさ

滑らかな走りを実現する技術として広く知られているビスカストランスミッションですが、オフロード車への搭載には、いくつかの課題が存在します。その最大の理由は、ビスカスカップリングの伝達トルクの小ささにあります。

オフロード走行、特に急な坂道や岩場といった悪路を走る際には、大きな駆動力が必要となります。しかし、ビスカスカップリングは機械式の差動制限装置に比べて伝達トルクが小さいため、これらの状況では十分な駆動力をタイヤに伝えきれません。結果として、スタックしたり、登坂に失敗したりする可能性が高くなります。

また、ビスカスカップリングは、発熱しやすいという特性も持っています。オフロード走行では、高負荷状態が連続的に発生しやすく、ビスカスカップリング内部のオイルの温度が上昇しやすくなります。オイルの温度が上昇すると、粘度が低下し、ビスカスカップリングの性能が低下してしまいます。この現象は、フェードと呼ばれ、オフロード走行において深刻な問題を引き起こす可能性があります。

さらに、ビスカスカップリングは、反応速度の遅さも指摘されています。路面状況が刻一刻と変化するオフロード走行においては、四輪駆動システムの迅速な反応が求められます。しかし、ビスカスカップリングは機械式に比べて反応速度が遅いため、悪路での走破性を損なう一因となっています。

これらの理由から、本格的なオフロード走行を頻繁に行う場合は、より強力で信頼性の高い四輪駆動システム、例えば、機械式差動制限装置や電子制御式差動制限装置などを備えた車を選ぶことが望ましいと言えるでしょう。

課題 詳細 結果
伝達トルクの小ささ オフロード走行に必要な大きな駆動力を伝えきれない スタック、登坂失敗
発熱しやすい 高負荷状態でオイルの温度が上昇し、粘度が低下 ビスカスカップリングの性能低下(フェード現象)
反応速度の遅さ 路面状況の変化に迅速に対応できない 悪路走破性の低下

ビスカスデフ

ビスカスデフ

ビスカスデフは、名前の通り、ビスカスカップリングを差動装置(デフ)に組み込んだ機構です。差動装置とは、左右の車輪の回転速度に差が生じることを許容する装置で、例えばカーブを曲がるとき、外側の車輪は内側の車輪よりも長い距離を移動する必要があるため、外側の車輪の回転速度が内側よりも速くなります。この速度差を吸収するのが差動装置の役割です。

しかし、片方の車輪が滑りやすい路面(例えば、ぬかるみや凍結路面)に差し掛かると、差動装置はその車輪に駆動力を集中させてしまい、空転を起こしてしまいます。結果として、もう片方のグリップのある車輪には駆動力が伝わらず、車は動けなくなってしまいます。これを防ぐのが、差動制限装置(LSD)です。ビスカスデフは、この差動制限装置の一つです。

ビスカスデフの内部には、多数の薄い板状の羽根が交互に配置されています。これらの羽根は、粘度の高いシリコンオイルで満たされた密閉容器の中に収められています。左右の車輪の回転速度に差が生じると、羽根も回転速度に差が生じ、オイルをかき混ぜる力が働きます。オイルの粘性抵抗によって、回転速度の遅い側に駆動力が伝達され、左右の車輪の回転差が抑制されるのです。

ビスカスデフは、構造が単純で、他の差動制限装置と比べて部品点数が少なく、小型軽量です。また、特別な制御装置も必要ありません。そのため、製造コストが安く、メンテナンスも容易です。

滑りやすい路面での発進や走行安定性を向上させる効果がありますが、反応速度が遅いため、スポーツ走行など、より高度な制御を求められる場面には不向きです。また、急激なトルク変化に対しては、効果が薄れることもあります。

項目 内容
名称 ビスカスデフ
機能 左右の車輪の回転速度差を抑制する差動制限装置(LSD)
構造 粘度の高いシリコンオイル中で多数の薄い板状の羽根が交互に配置された構造
動作原理 左右の車輪の回転速度差により、オイルをかき混ぜる力が発生し、オイルの粘性抵抗によって回転速度の遅い側に駆動力が伝達される。
利点 構造が単純、部品点数が少なく小型軽量、製造コストが安い、メンテナンスが容易、滑りやすい路面での発進や走行安定性を向上
欠点 反応速度が遅い、急激なトルク変化には効果が薄い、スポーツ走行など高度な制御には不向き