2ストロークエンジンの横断掃気方式

2ストロークエンジンの横断掃気方式

車のことを知りたい

先生、『横断掃気』って、2ストロークエンジンの空気の入れ替え方法の一つですよね? よくわからないので教えてください。

車の研究家

そうだね。『横断掃気』は、シリンダーの片側から新しい空気を入れ、反対側から古い空気を出す方法だよ。ピストンの上下運動で、新しい空気がシリンダー内を横切って古い空気を押し出すイメージだね。

車のことを知りたい

横切るように空気が流れるんですね。でも、吸い込んだばかりの空気がすぐ出て行ってしまいそうじゃないですか?

車の研究家

いいところに気がついたね。その通りで、吸い込んだ空気がうまく燃焼に使われずに出て行ってしまう『素通り』という欠点があるんだ。それを防ぐために、ピストンに突起をつけたり、空気の流れを工夫したりしているんだよ。

横断掃気とは。

二行程機関の空気の入れ替え方法の一つである『横断掃気』について説明します。この方式では、吸気口から入った新しい空気は、筒の中を上に昇り、筒の上部をぐるっと回ってから下に降りていきます。そして、吸気口とは反対側にある排気口に向かって筒の中を横切って、中の空気を押し出します。この方式では、筒の下部で吸気口と排気口が向かい合っているため、入ったばかりの空気がすぐに出て行ってしまうという欠点があります。そのため、空気の流れを良くするために、ピストンヘッドに突起をつけるなどの工夫がされています。空気の入れ替え効率は、ループ掃気やユニフロー掃気に比べると劣ります。

横断掃気とは

横断掃気とは

二行程機関は、吸気、圧縮、爆発、排気の行程をクランク軸の二回転で終える、構造が簡素な機関です。吸気と排気に特化した弁機構を持たないため、シリンダー壁に開けられた吸気口と排気口、そしてピストンの上下運動によって混合気の出し入れを行います。この混合気の入れ替え方法を掃気と言い、様々な方式があります。その中の一つが横断掃気です。

横断掃気では、ピストンが下降する際、クランク室が生み出す負圧によって吸気口から新鮮な混合気がシリンダー内に入り込みます。同時にピストンは排気口を塞ぎ、シリンダー内へと導かれた混合気はピストン頭頂部によって押し上げられ、シリンダー上部を旋回するように流れます。その後、ピストンが上昇すると排気口が開き、シリンダー内を横切るように流れた混合気は、燃え残りのガスと共に排気口から排出されます

この混合気がシリンダー内を横切るように流れる動きが、横断掃気の名前の由来です。横断掃気は構造が簡素で製造費用を抑えられるという利点がある一方、新鮮な混合気の一部が排気口から出てしまう短所もあります。これは、吸気口と排気口がシリンダーの反対側に位置しているため、混合気がシリンダー内全体に行き渡る前に排気口に到達してしまうことが原因です。この欠点を補うため、ピストン頭頂部にはデフレクターと呼ばれる突起が設けられており、混合気の流れを制御することで燃焼効率の向上を図っています。しかし、それでもなお、4行程機関と比較すると混合気の排出ロスが多く、燃費や排ガス性能で劣る点が課題として残ります。

仕組みと流れ

仕組みと流れ

エンジンが動く仕組みと、その一連の流れについて詳しく説明します。二行程エンジンの特徴である横断掃気方式を中心に見ていきましょう。

ピストンが下降し、一番下にある状態(下死点)に近づくと、吸気孔が開きます。この吸気孔は、エンジン内部のクランクケースと呼ばれる部分に繋がっています。クランクケースには、あらかじめ燃料と空気が混ざった混合気が圧縮された状態で蓄えられています。ピストンが下死点に達する直前、シリンダー内は燃え終わった排気ガスで満たされています。この時、開いた吸気孔から、圧縮されていた混合気が勢いよくシリンダー内に流れ込みます。

シリンダー内に流れ込んだ混合気は、ピストンの頭の部分の形状に沿って導かれながら上方へと移動し、燃焼室を満たしていきます。同時に、排気孔も開いており、燃焼を終えた排気ガスはシリンダーから外へと排出されます。新しい混合気は、シリンダーの上部で渦を巻きながら下降し、排気孔からシリンダーの外へと押し出されます。このように、混合気がシリンダーを横切って掃き出すことから、この一連の動作を横断掃気と呼びます。この横断掃気によって、燃焼済みのガスを効率的に排出し、新しい混合気で燃焼室を満たすことができます。

ピストンが上昇を始めると、吸気孔と排気孔は閉じられます。閉じられたシリンダー内で混合気は圧縮され、次の行程である爆発へと移ります。圧縮された混合気に点火することで爆発が起こり、ピストンが押し下げられ、エンジンが動力を生み出すのです。このように、吸気、掃気、圧縮、爆発という行程を繰り返すことで、二行程エンジンは動力を生み出し続けています。

仕組みと流れ

利点と欠点

利点と欠点

横断掃気式エンジンは、その名前の通り、シリンダーを横断するように空気が流れる構造を持ったエンジンです。この構造には、いくつかの利点と欠点が存在します。

まず、大きな利点の一つはその簡素さです。吸気口と排気口がシリンダーの両端に配置されているため、部品点数が少なく、構造が単純になります。これは、エンジンの製造を容易にし、生産コストの削減に繋がります。また、構造が単純なため、整備もしやすく、維持管理にかかる費用も抑えることができます。さらに、小型軽量化にも貢献し、様々な乗り物への搭載を容易にします。

しかし、横断掃気式エンジンには無視できない欠点も存在します。最も大きな問題は、「ショートサーキット」と呼ばれる現象です。これは、吸気口から入った新鮮な混合気が、ピストンの動きによって十分に燃焼室全体に広がる前に、排気口からそのまま排出されてしまう現象です。ピストンが上下に動くだけで混合気をシリンダー内に拡散させるため、どうしてもこの現象が発生しやすくなります。ショートサーキットが発生すると、燃焼効率が低下し、出力の低下や燃費の悪化に繋がります。さらに、未燃焼の混合気が排出されるため、排気ガスによる大気汚染の原因にもなります。近年では、環境規制の強化に伴い、この欠点はより深刻な問題となっています。そのため、このショートサーキットを抑制するために様々な工夫が凝らされていますが、根本的な解決には至っていません。以上の点から、横断掃気式エンジンは、簡素さと低コストという利点を持つ反面、燃焼効率と排気ガス性能という点で課題を抱えていると言えます。

項目 詳細
利点
  • 簡素な構造:部品点数が少なく、製造が容易
  • 低コスト:生産コスト、維持管理費用が低い
  • 小型軽量:様々な乗り物への搭載が容易
欠点
  • ショートサーキット:吸気から排気までが短く、燃焼効率が低い
  • 出力低下:燃焼効率の悪さから出力が低い
  • 燃費悪化:燃焼効率の悪さから燃費が悪い
  • 排気ガスによる大気汚染:未燃焼ガスが排出される

効率改善の工夫

効率改善の工夫

エンジンの出力向上と燃費向上の鍵となるのが、燃焼効率の改善です。その燃焼効率に大きく関わるのが、いかに新鮮な混合気をシリンダー内に取り込み、燃え残った排気ガスをシリンダー外へ排出するかという点です。この流れを掃気と呼び、その効率を高めるための様々な工夫が凝らされています。

まず、ピストン頂部に設けられたデフレクターについて説明します。デフレクターとは、ピストン頂部にある突起のことで、その役割は空気の流れを調整することです。シリンダー内に吸気された新鮮な混合気は、ピストンが下降する際にシリンダー内を渦を巻くように流れます。この時、デフレクターがないと、吸気の一部が排気口へと流れ出てしまい、燃焼に寄与しません。これをショートサーキットと言います。デフレクターはこのショートサーキットを抑制し、吸気をシリンダー内に留める働きをします。新鮮な混合気をシリンダー内に多く留めることで、燃焼効率を高め、エンジンの性能向上に繋げます。デフレクターの形状、大きさ、角度などはエンジンによって異なり、最適な設計とすることで掃気効率を最大限に高めることができます。

デフレクター以外にも、掃気効率を高めるための工夫はあります。例えば、吸気口や排気口の形状や配置、開閉のタイミングも重要な要素です。吸気口と排気口の位置関係や形状を最適化することで、シリンダー内の空気の流れをスムーズにし、新鮮な混合気と排気ガスの入れ替えを効率的に行うことができます。また、吸気バルブと排気バルブの開閉タイミングを調整することで、シリンダー内に充填される混合気の量を最大化し、排気ガスの排出を促進することができます。これらの工夫を組み合わせることで、エンジンの出力と燃費を向上させ、環境性能を高めることができます。

効率改善の工夫

他の掃気方式との比較

他の掃気方式との比較

自動車の原動機に使われる内燃機関には、シリンダー内部に新しい混合気を送り込み、燃焼後の排気ガスを排出する機構が必要です。これを掃気といい、いくつかの方式があります。この文章では、横断掃気と他の掃気方式を比較してみましょう。

横断掃気は、吸気孔と排気孔がシリンダーの反対側に配置されているのが特徴です。ピストンが下降すると、吸気孔から新しい混合気がシリンダー内に入り、同時に排気孔から排気ガスが排出されます。混合気の流れはシリンダーを横切る形になるため、横断掃気と呼ばれます。この方式は構造が単純で製造コストが低いという大きな利点があります。そのため、現在でも一部の小型原動機などで使われています。しかし、吸気と排気が完全に分離されにくいため、新しい混合気の一部が排気と一緒に排出されてしまう短所もあります。これを「ショートサーキット」と呼び、原動機の出力や燃費を低下させる要因となります。

一方、ループ掃気では吸気孔と排気孔がシリンダーの同じ側に配置され、混合気はシリンダー内を渦を巻くように流れます。ユニフロー掃気では吸気孔はシリンダーの下部に、排気孔は上部に配置され、混合気はシリンダー内を下から上へ一方向に流れます。これらの掃気方式は、横断掃気に比べて混合気と排気ガスの分離が良く、ショートサーキットの発生を抑えることができます。結果として、原動機の出力向上と燃費改善につながります。ただし、これらの方式は横断掃気に比べて構造が複雑になり、製造コストも高くなるため、用途によっては横断掃気が選ばれることもあります。

このように、それぞれの掃気方式には利点と欠点があります。原動機の大きさや用途、求められる性能やコストなどを考慮して、最適な掃気方式が選択されているのです。

掃気方式 吸排気孔配置 混合気の流れ 利点 欠点
横断掃気 シリンダーの反対側 シリンダーを横切る 構造が単純、製造コストが低い ショートサーキット発生、出力・燃費低下
ループ掃気 シリンダーの同じ側 シリンダー内を渦を巻く 混合気と排気ガスの分離が良い、出力向上、燃費改善 構造が複雑、製造コストが高い
ユニフロー掃気 吸気孔:下部、排気孔:上部 シリンダー内を下から上へ一方向 混合気と排気ガスの分離が良い、出力向上、燃費改善 構造が複雑、製造コストが高い

今後の展望

今後の展望

自動車を取り巻く環境は、排気ガスによる大気汚染への対策が強く求められる時代となっています。そのため、従来広く使われてきた2行程機関は、排出ガス規制に対応することが難しく、4行程機関への移行が進んでいます。しかし、2行程機関は構造が単純で軽く、高い出力を生み出すことができるという優れた点を持っています。これらの利点を生かしながら、環境への負荷を低減させる技術開発が重要な課題となっています。

2行程機関の中でも、横断掃気方式は現在も広く用いられています。この方式では、ピストンがシリンダー内を上下することで、シリンダー内に新しい混合気を送り込み、同時に燃焼後の排気ガスを排出します。しかし、この過程で、新しい混合気と排気ガスが混ざり合ってしまうため、燃焼効率が低下し、排出ガスに有害物質が多く含まれてしまうという問題があります。この問題を解決するために、計算機による模擬実験などを用いて、シリンダー内の空気の流れを最適化する研究が進められています。空気の流れを精密に制御することで、新しい混合気と排気ガスの混合を最小限に抑え、燃焼効率を高め、排出ガスを減らすことが期待されます。

さらに、新たな技術開発も進められています。例えば、直接噴射方式は、燃料を直接燃焼室に噴射することで、混合気の精密な制御を可能にする技術です。これにより、燃焼効率を向上させ、排出ガスを低減させることができます。また、触媒技術の向上も重要な要素です。排気ガスに含まれる有害物質を、触媒を用いて無害な物質に変換することで、環境への影響を低減することができます。これらの技術開発により、2行程機関は、環境性能と出力性能を両立させた、未来の動力源として再び注目を集める可能性を秘めています。

課題 対策 詳細
2ストローク機関の排出ガス問題 4ストローク機関への移行 排出ガス規制に対応
横断掃気方式の改良 計算機による模擬実験などを用いて、シリンダー内の空気の流れを最適化
→ 新しい混合気と排気ガスの混合を最小限に抑え、燃焼効率を高め、排出ガスを減らす
新たな技術開発 直接噴射方式:燃料を直接燃焼室に噴射することで、混合気の精密な制御を可能にする
触媒技術の向上:排気ガスに含まれる有害物質を、触媒を用いて無害な物質に変換