くさび形燃焼室の興隆と衰退
車のことを知りたい
『くさび形燃焼室』って、どんな形をしていて、どんな良い点があるのですか?
車の研究家
くさび形燃焼室は、名前の通り、断面がくさびのような形をしています。利点としては、燃えやすい形になっていることと、吸気と排気の道筋である吸排気口を緩やかに曲げられることが挙げられます。
車のことを知りたい
どうして燃えやすい形なのですか?
車の研究家
火をつける部品である点火プラグ近くに、燃焼室の空間が集中しているからです。また、燃焼室の周辺部にスキッシュと呼ばれる空間を設けやすく、これが速い燃焼を促します。さらに、くさび形は燃焼室内の空気の流れを燃焼に有利なようにすることができます。
ウエッジ形燃焼室とは。
『くさび形燃焼室』という車の用語について説明します。これは、エンジンのシリンダーの中心線に対して、空気の吸入口と排気口のバルブを同じ側に傾けて配置した燃焼室のことです。燃焼室を前から見ると、断面がくさび形をしているため、この名前が付けられました。
吸気バルブと排気バルブが一直線に並んでいて、それぞれ1つずつしかない場合によく見られる燃焼室の形です。この形にすることで、点火プラグの近くに燃焼室の容積を集中させたり、燃焼室の周りに『スキッシュ』と呼ばれる空間を簡単に作れたりします。そのため、燃焼が速く、空気の出入り口の曲がりを緩やかにできます。
天井が平らな『浴槽形』に比べて、くさび形燃焼室は、燃焼に都合の良いように燃焼室内のガスの流れを作ることができます。また、点火プラグの隙間を燃焼室の厚い部分に配置できるので、速い燃焼に適しています。
しかし、空気の出入り口をシリンダーヘッドの同じ側に開けなければならないため、吸気と排気がUターンするような流れになってしまいます。
1970年代のガソリンエンジンではよく使われていましたが、その後、エンジンが4つのバルブを持つようになり、より理想的な『半球形燃焼室』や『多球形燃焼室』が主流になりました。さらに、4つのバルブの中心に点火プラグを配置する『屋根裏部屋形燃焼室』が登場したことで、乗用車用のエンジンではほとんど見られなくなりました。
バルブの傾斜は9~15度が多いです。傾斜が0度またはそれに近いものを『浴槽形』と言います。
燃焼室の形
燃焼室の形は、自動車の心臓部であるエンジンの性能を左右する重要な要素です。数ある燃焼室の種類の中でも、くさび形燃焼室は独特な形状と特性を持っています。その名の通り、断面がくさびのような形をしていることから、このように呼ばれています。
自動車のエンジンは、ガソリンと空気を混ぜ合わせた混合気に点火し、爆発力を生み出すことで動力を得ています。この爆発が起こる空間こそが燃焼室です。くさび形燃焼室は、吸気バルブと排気バルブをどちらもシリンダーヘッドの同じ側に、斜めに配置することで作られます。吸気バルブはエンジン内に新鮮な混合気を取り入れるための入口であり、排気バルブは燃えカスを外に出すための出口です。これらを同じ側に斜めに配置することで、燃焼室全体がくさびのような形になります。
このくさび形には、いくつかの利点があります。まず、燃焼室の表面積が小さくなるため、熱が逃げにくく、燃焼効率が向上します。これは燃費の向上に繋がります。また、バルブを斜めに配置することで、混合気の渦(うず)を発生させやすく、均一な燃焼を実現できます。均一な燃焼は、エンジンの安定した出力と有害な排気ガスの減少に貢献します。
しかし、くさび形燃焼室には欠点も存在します。バルブの配置の自由度が低いため、高出力化が難しいという点です。吸気バルブと排気バルブを大きくしたり、数を増やしたりすることで高出力を目指せますが、くさび形ではこれが制限されます。そのため、高い出力を必要とするスポーツカーなどには、あまり採用されていません。
このように、くさび形燃焼室は燃費の向上と安定した出力に優れる一方、高出力化には不向きという特徴があります。自動車の用途や目的に合わせて、最適な燃焼室の形を選ぶことが大切です。
項目 | 内容 |
---|---|
形状 | 断面がくさび形 |
バルブ配置 | 吸気バルブと排気バルブをシリンダーヘッドの同じ側に斜めに配置 |
利点 |
|
欠点 | バルブ配置の自由度が低い → 高出力化が難しい |
総評 | 燃費向上、安定出力に優れるが、高出力化には不向き |
燃焼の速さ
くさび形燃焼室は、その名の通り、くさびのような形をした燃焼室です。この形の最大の特長は、燃焼の速さにあります。燃焼の速さとは、混合気(空気と燃料の混合物)に火がつき、燃え広がる速さのことです。この速さが速ければ速いほど、エンジンの出力と燃費は向上します。
くさび形燃焼室では、点火プラグの周りの空間に混合気が集中するように設計されています。点火プラグから火花が散ると、周りの空間にある混合気にすぐに火がつきます。そして、その火は周囲の混合気にどんどんと広がっていきます。まるで山火事が山の斜面を駆け上がっていくように、燃焼は速やかに燃焼室全体に広がります。これが、くさび形燃焼室の燃焼速度が速い理由です。
さらに、くさび形燃焼室には、スキッシュエリアと呼ばれる工夫が凝らされています。スキッシュエリアとは、燃焼室の周辺部に設けられた狭い空間のことです。ピストンが上昇すると、このスキッシュエリアに押し込められた混合気は、勢いよく中心部へと流れ込みます。この流れ込みによって、燃焼室の中心部に混合気が集中し、より素早く、より確実に燃焼が起こるようになります。スキッシュエリアは、燃焼を促進させるための重要な役割を果たしているのです。
1970年代のガソリンエンジンでは、この高速燃焼という特性が特に重視されました。当時、排出ガス規制が厳しくなり、エンジンの燃費向上と出力向上が求められていたためです。くさび形燃焼室は、これらの要求に応える画期的な技術として、多くの自動車メーカーに採用され、広く普及しました。現代のエンジンでは、さらに高度な技術が用いられていますが、くさび形燃焼室は、燃費向上と出力向上に大きく貢献した重要な技術の一つと言えるでしょう。
名称 | 特徴 | 効果 | その他 |
---|---|---|---|
くさび形燃焼室 | くさびのような形をしている。点火プラグ周囲に混合気が集中する設計。スキッシュエリア有り。 | 燃焼速度が速い。出力と燃費が向上する。 | 1970年代のガソリンエンジンで広く普及。 |
スキッシュエリア | 燃焼室周辺部の狭い空間。 | ピストン上昇時に混合気を中心部に押し込み、燃焼を促進。 |
吸排気の流れ
自動車の心臓部であるエンジンにおいて、空気と燃料の混合気を燃焼させて動力を得るためには、新鮮な空気を効率よく取り込み、燃焼後の排気ガスを速やかに排出することが非常に重要です。この吸気と排気の動作はエンジンの性能を大きく左右し、その流れをいかにスムーズにするかが設計の鍵となります。
かつて主流であった、くさび形をした燃焼室を持つエンジンは、この吸排気の流れにおいて課題を抱えていました。燃焼室の形状から、吸気バルブと排気バルブが同じ側に並んで配置されていました。この配置のために、吸い込まれた空気は燃焼室に入り、U字を描くように方向転換して排気バルブから出ていくことになります。ちょうど道路でUターンをする必要があるようなもので、流れが滞りやすく、抵抗が発生してしまうのです。この抵抗は、エンジンの回転数が上がるにつれて大きくなり、高回転域での出力低下につながります。
高性能なエンジン、つまり大きな出力と高い回転数を両立できるエンジンが求められるようになると、このくさび形燃焼室の欠点がより顕著になっていきました。スムーズな吸排気の流れを確保できないことが、エンジンの性能向上を阻害する大きな要因となっていたのです。高速道路を走る車に例えるならば、Uターンを繰り返しながら走るようなもので、スムーズに速度を上げることが難しく、燃費も悪くなってしまうのと同じです。この吸排気の流れの問題を解決するために、後にペントルーフ型燃焼室といった新たな燃焼室形状が開発され、吸排気効率の向上に貢献していくことになります。
燃焼室形状 | 吸排気の流れ | 性能への影響 |
---|---|---|
くさび形 | U字型 (吸気バルブと排気バルブが同列配置のため、吸入空気はUターン) | 高回転時の出力低下 (流れの滞り、抵抗増加) |
ペントルーフ型 | スムーズ (吸排気効率向上) | 高性能化に貢献 (高出力、高回転両立) |
多バルブ化への移行
1980年代以降、自動車の心臓部であるエンジンに大きな変化が起こりました。吸気と排気の入り口であるバルブの数が、従来の2つから4つに増える「多バルブ化」が急速に進んだのです。この技術革新は、エンジンの性能向上に大きく貢献しました。
従来のエンジンは、吸気と排気のそれぞれにバルブを1つずつ、計2つしか持っていませんでした。しかし、4バルブエンジンでは、吸気と排気にそれぞれ2つずつ、計4つのバルブを持つようになりました。バルブの数を増やすことで、空気と排気ガスの流れがスムーズになり、より多くの空気をエンジンに取り込み、より多くの排気ガスを排出できるようになりました。この吸排気効率の向上は、エンジンの出力向上と燃費向上に直結しました。
多バルブ化に伴い、燃焼室の形状も変化しました。従来の「くさび形」と呼ばれる燃焼室は、バルブの配置に制約があり、吸排気効率の向上に限界がありました。そこで、より理想的な燃焼室形状として「半球形」や「多球形」の燃焼室が採用されるようになりました。これらの燃焼室は、バルブを効率的に配置できるため、吸排気効率がさらに向上しました。また、燃焼室内のガスが均一に燃えやすいため、燃焼速度も向上し、高出力化に貢献しました。
このように、多バルブ化と燃焼室形状の改良は、エンジンの性能を飛躍的に向上させました。より力強く、より燃費の良いエンジンが実現し、自動車の進化に大きく貢献した技術革新と言えるでしょう。
項目 | 従来のエンジン | 多バルブエンジン |
---|---|---|
バルブ数 | 2バルブ (吸気1, 排気1) | 4バルブ (吸気2, 排気2) |
吸排気効率 | 低い | 高い |
燃焼室形状 | くさび形 | 半球形/多球形 |
出力 | 低い | 高い |
燃費 | 低い | 高い |
姿を消した燃焼室
かつて自動車のエンジンにおいては、ウエッジ(くさび)型の燃焼室が主流でした。この燃焼室は、ピストン頂部が傾斜した、いわば斜面のような形状を持つのが特徴です。この構造により、火花が燃焼室全体に広がりやすく、比較的簡素な設計で製造できるという利点がありました。そのため、多くの自動車メーカーが採用し、一時代を築きました。
しかし、技術の進歩は留まることを知りません。自動車エンジンの燃焼効率向上と排気ガスの浄化という課題に対し、より高度な技術が求められるようになったのです。そこで登場したのが、ペントルーフ型の燃焼室です。ペントルーフとは、屋根裏部屋を意味します。その名の通り、ピストン頂部がほぼ平らで、燃焼室がコンパクトに設計されています。
ペントルーフ型燃焼室の大きな特徴は、4つの吸排気バルブの中心に点火プラグを配置する「4バルブ中心点火」を可能にしたことです。この配置により、火炎が燃焼室の中心から均一に広がり、燃焼速度が向上します。結果として、燃焼効率が上がり、燃費の向上と排気ガスの低減に大きく貢献するのです。さらに、吸排気バルブを4つにすることで、吸排気効率も向上します。これにより、エンジンの出力向上にもつながります。
このように、燃焼効率と吸排気効率の両面で優れたペントルーフ型燃焼室は、瞬く間に主流となりました。かつて主流であったウエッジ型燃焼室は、乗用車ではほとんど姿を消し、歴史の片隅へと追いやられてしまいました。これはまさに、技術革新の波が、いかに速く、そして容赦なく押し寄せるかを示す好例と言えるでしょう。時代の変化とともに、自動車のエンジン技術は常に進化を続けているのです。
燃焼室タイプ | 特徴 | 利点 | 欠点 | 現状 |
---|---|---|---|---|
ウエッジ型 | ピストン頂部が傾斜 | 簡素な設計、製造しやすい、火花が燃焼室全体に広がりやすい | 燃焼効率が低い、排ガスが多い | 乗用車ではほぼ姿を消した |
ペントルーフ型 | ピストン頂部がほぼ平ら、燃焼室がコンパクト、4バルブ中心点火 | 燃焼効率が高い、燃費が良い、排ガスが少ない、吸排気効率が良い、出力が高い | 設計・製造が複雑 | 主流 |
傾斜角度
自動車の心臓部である原動機には、様々な工夫が凝らされています。原動機の性能を決める要素の一つに、燃焼室の形状があります。燃焼室の形は様々ですが、大きく分けて楔形と浴槽形の二種類に分類できます。
楔形燃焼室は、その名の通り楔のような形をしています。この楔の角度、つまり弁の傾斜角度が燃焼室の形状を決定づける重要な要素です。一般的には、この傾斜角度は9度から15度程度に設定されています。この角度が、混合気の燃え方に大きく影響を与えます。最適な角度にすることで、燃焼効率を高め、原動機の性能を向上させることができるのです。
一方、浴槽形燃焼室は、浴槽のように底が平らな形をしています。弁の傾斜角度が0度に近づくにつれて、燃焼室の形状は浴槽形に近づいていきます。浴槽形燃焼室は、楔形燃焼室に比べて表面積が小さくなるため、熱損失を減らすことができます。熱損失が少ないと、燃焼効率が向上し、燃費の向上に繋がります。また、点火プラグを中央に配置しやすいという利点もあり、安定した燃焼を実現することができます。
このように、楔形と浴槽形、それぞれの燃焼室には異なる特性があります。原動機の設計思想、例えば高出力を目指すのか、それとも燃費の良さを追求するのかによって、最適な燃焼室の形状が選択されます。弁の傾斜角度は、単なる部品の角度ではなく、原動機の性能を左右する重要な設計要素と言えるでしょう。
燃焼室形状 | 特徴 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
楔形 | 楔のような形状 弁傾斜角度: 9°〜15° |
燃焼効率向上による高出力化 | 熱損失大 |
浴槽形 | 底が平らな形状 弁傾斜角度: 0°付近 |
表面積小による熱損失減少 点火プラグ中央配置による安定燃焼 燃費向上 |
出力特性低い |