差動装置の心臓部:スパイダーギヤ
車は進む時、真っ直ぐな道だけでなく曲がりくねった道も走ります。道を曲がる時、外側の車輪と内側の車輪では進む距離が違います。例えば、右に曲がる場面を考えてみましょう。この時、車体の外側、つまり右側の車輪は大きな円を描いて進みます。一方、車体の内側、つまり左側の車輪は小さな円を描いて進みます。同じ右へのカーブでも、より急なカーブではこの描く円の大きさの差は大きくなります。もし、左右の車輪が同じ軸で固定されていたらどうなるでしょうか。常に同じ速さで回転しなければならず、外側の車輪は空回りし、内側の車輪は路面をこすりながら無理やり回転することになります。これは、タイヤの摩耗を早めるだけでなく、車体全体の振動や駆動系への負担を増大させ、快適な運転を妨げる原因となります。
そこで登場するのが差動装置です。差動装置は、左右の車輪の回転数の違いを吸収する、いわば回転速度の調整役です。エンジンの力はまず差動装置に伝えられ、そこから左右の車輪へと分配されます。直進している時は、左右の車輪に同じだけの力が均等に伝わります。しかしカーブを曲がる時、例えば先ほどの右カーブの例では、差動装置は外側の右車輪に速く回転するだけの力を伝え、内側の左車輪にはゆっくり回転するだけの力を伝えます。この仕組みにより、左右の車輪はそれぞれ必要なだけ回転することができ、タイヤの空回りを防ぎ、スムーズな旋回が可能になるのです。また、タイヤへの負担が軽減されるため、タイヤの寿命を延ばす効果も期待できます。差動装置は、車の快適性と安全性を向上させるために、なくてはならない重要な装置の一つと言えるでしょう。