消えゆく技術:スロットピストンの興亡
自動車の心臓部である機関には、上下に動き回る小さな部品があります。この部品は、混合気の爆発力を回転力に変える重要な働きをしています。それが、活塞です。活塞は筒の中を勢いよく上下するため、摩擦による摩耗や焼き付きを防ぐ工夫が欠かせません。
かつて、この活塞には溝が彫られていました。この溝は、活塞のスカートと呼ばれる部分、つまり筒の内側と接する部分に設けられたものでした。まるで衣服のひだのように、この溝は活塞に柔軟性を与えました。
機関が動いている時は、筒の中は高温高圧になります。この熱によって活塞は膨張し、変形してしまいます。膨張した活塞が筒に強く押し付けられると、摩擦抵抗が大きくなり、動きが悪くなってしまいます。溝はこの熱による膨張をうまく吸収し、活塞が変形しても筒との隙間を適切に保つ役割を果たしました。溝があることで、活塞は筒に強く押し付けられることなく、スムーズに動くことができたのです。
この溝は、活塞と筒の摩擦を減らし、機関の滑らかな動きを助ける重要な役割を担っていました。さらに、溝は潤滑油の保持にも役立ちました。溝に保持された潤滑油は、活塞と筒の間の摩擦をさらに低減し、摩耗や焼き付きを防ぎました。
近年の技術革新により、素材や加工技術が向上したことで、溝のない活塞も登場しました。しかし、かつての技術者の工夫と知恵が詰まった溝付き活塞は、自動車の歴史において重要な役割を果たしたと言えるでしょう。