スーサイドドア

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車の構造

スーサイドドア:安全性と利便性の両立

自動車の扉は、通常前方に向かって開きますが、過去には後方に向かって開く扉、いわゆる「観音開き」も存在しました。この扉は、開いた時の様子が寺院の観音開きの扉に似ていることから、そう呼ばれるようになりました。しかし、別の呼び名として「自殺扉」という物騒な名前も持っています。なぜこのような名前がついたのでしょうか。 「自殺扉」と呼ばれるようになった理由は、走行中に誤って扉が開いてしまうと、乗員が車外に投げ出される危険性が高かったためです。特に1960年代より前の自動車は、安全対策が今ほど充実しておらず、扉の施錠機構も簡素でした。そのため、走行中の振動や風の影響で、扉が不意に開いてしまう事故が少なからず発生しました。まるで自ら命を落とすような危険な行為に見えることから、「自殺扉」という呼び名が定着してしまったのです。 観音開きは、後部座席への乗り降りはしやすかったものの、安全上の懸念から、次第に前方に開く扉が主流となりました。1960年代以降、自動車の安全性に対する意識が高まり、設計思想も大きく変化しました。シートベルトの着用が義務化され、扉の施錠機構も改良が重ねられました。さらに、衝突安全性や乗員保護性能の向上も重視されるようになり、自動車全体の構造が見直されていきました。 このような時代の流れの中で、安全上の問題を抱えていた観音開きを採用する自動車メーカーは減っていき、前方に開く扉が一般化していきました。現在では、観音開きを採用している車はごく少数です。一部の高級車やスポーツカーなどで、デザイン性や個性を強調するために採用される例がありますが、安全対策は万全に施されています。かつての「自殺扉」とは異なり、走行中に誤って開いてしまう危険性は極めて低くなっています。