懐かしのフェンダーミラー
車の側面、前輪の上あたりに取り付けられた小さな鏡。歩道に沿って走る歩行者や自転車、そして対向車を映し出す、安全確認になくてはならない部品です。かつて日本の路上を走る車のほとんどに付いていた、この小さな鏡は、通称「フェンダーミラー」と呼ばれていました。 名前の通り、車の泥除けであるフェンダーに取り付けられていることから、このように呼ばれています。近頃は街中で見かける機会もめっきり減ってしまい、タクシーやトラック、教習車など一部の車種に限られているようです。いったいなぜ、主流だったフェンダーミラーは姿を消しつつあるのでしょうか。
その理由の一つとして、空気抵抗の低減が挙げられます。車体の前面に突き出すように取り付けられたフェンダーミラーは、どうしても空気の流れを阻害してしまいます。 空気抵抗が大きくなると燃費が悪くなるばかりか、走行時の安定性にも影響を及ぼします。近年の車は燃費向上と走行性能の向上のために、空気抵抗を減らす様々な工夫が凝らされています。その結果、車体と一体化したドアミラーが主流になってきたのです。
また、運転席から見た時の視界の良さも、ドアミラーが選ばれる理由の一つです。 フェンダーミラーは車体前方にあるため、どうしても死角が生じやすく、周囲の状況を把握しづらいという欠点がありました。運転席のすぐ隣にあるドアミラーであれば、視線を少し動かすだけで安全確認ができます。さらに、ミラーの位置を自由に調節できる点も、ドアミラーの大きなメリットと言えるでしょう。
デザイン性も、フェンダーミラーが姿を消した要因の一つと考えられます。 近年の車は、流線型の洗練されたデザインが主流です。車体から突き出たフェンダーミラーは、どうしてもこの流れに逆行してしまい、デザイン性を損なう原因となっていました。すっきりとしたフォルムのドアミラーは、現代の車のデザインにより調和していると言えるでしょう。
このように、燃費向上や安全性の追求、そしてデザイン性の重視といった時代の流れの中で、フェンダーミラーは徐々にその姿を消していきました。しかし、現在でもフェンダーミラーを採用している車種が存在するのは、狭い場所での運転のしやすさなど、フェンダーミラーならではの利点もあるからです。時代の変化とともに姿を消しつつあるフェンダーミラーですが、かつて日本の自動車史を彩った部品として、その存在を記憶にとどめておきたいものです。