隠れた名品:フロートマウントワイパー
ワイパー。雨の日の視界を守る、なくてはならない装置です。その進化は、安全運転の向上に直結する重要な要素と言えるでしょう。今回ご紹介する「浮き置き式ワイパー」も、そうした進化の過程で生まれた、隠れた名品です。聞き慣れない名前かもしれませんが、実は1984年、いすゞ自動車が発売したピアッツァターボという車に初めて搭載されました。主にアメリカ向けに輸出されたこの車種が採用したことで、この技術は世に知られることとなりました。
当時の自動車業界は、静かな車内空間の実現に向けてしのぎを削っていました。様々な部品が見直され、騒音低減の工夫が凝らされていました。ワイパーも例外ではなく、作動時の騒音は大きな課題でした。そこで開発されたのが、この画期的な浮き置き式ワイパーです。従来のワイパーは、ワイパーアームの支点を車体に固定していました。そのため、ワイパーの動きに合わせてアーム全体が振動し、それが騒音の原因となっていました。
浮き置き式ワイパーは、この支点構造を大きく変えました。アームの支点を、バネ仕掛けの浮き構造に変更したのです。これにより、ワイパーアームは車体からわずかに浮いた状態になり、ワイパーの動きによる振動を吸収するようになりました。まるで水面に浮かぶ木の葉のように、ワイパーアームは滑らかに動き、騒音を抑えることに成功したのです。
この技術は、単に騒音を低減するだけではありませんでした。ワイパーゴムと窓ガラスの密着性を高める効果もあり、拭き取り性能の向上にも貢献しました。静粛性と拭き取り性能、相反する二つの性能を両立させた浮き置き式ワイパーは、まさに技術革新の象徴と言えるでしょう。現在では多くの車種で採用されるようになり、雨の日の運転をより快適で安全なものにしてくれています。