工具の秘密:バックテーパー
物を貫通する穴を開ける作業は、様々な製造現場で見られます。この穴あけ加工には、回転しながら材料に食い込んでいく錐のような道具が使われます。この道具と材料が擦れ合うことで熱が発生しますが、この熱は道具の寿命を縮めたり、仕上がりの精度を悪くしたりする困ったものです。
そこで、道具の工夫が必要になります。よく見ると、穴を開ける道具の先端から持ち手に向かって、少しずつ外径が細くなっていることに気が付きます。このわずかな傾斜を「逃がし勾配」と呼びます。逃がし勾配があることで、道具と穴の内壁が触れ合う面積が小さくなり、発生する熱を抑えることができるのです。
特に深い穴を開ける場合は、この逃がし勾配の効果が大きく現れます。深い穴を開ける作業では、道具が穴の中で曲がってしまったり、熱で溶けてくっついてしまったりする危険性があります。逃がし勾配はこれらのトラブルを防ぎ、安定した作業を続ける上で重要な役割を果たします。
逃がし勾配は一見すると小さな工夫ですが、道具の性能や作業効率に大きな影響を与える重要な要素です。逃がし勾配によって熱の発生を抑え、道具の寿命を延ばし、より精度の高い穴あけ加工を実現することが可能になります。製造現場では、このような小さな工夫の積み重ねが、高品質な製品を生み出すことに繋がっているのです。