多板クラッチ

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駆動系

速さを追求するメタルクラッチ

車輪を回すための力の源である原動機は、それのみでは速さを左右する全てではありません。原動機の力を車輪に伝えるための部品もまた、速さに大きく影響します。特に、速さを競う競技においては、その部品の性能が勝敗を分ける鍵となることもあります。 原動機の力を車輪に伝える部品の一つに、離合器と呼ばれるものがあります。離合器は、原動機と変速機を繋いだり、切り離したりする役割を担っています。この繋ぐ、切り離す動作により、滑らかに発進したり、変速したりすることが可能になります。 離合器には様々な種類がありますが、競技用の車に多く用いられるものに、金属離合器があります。金属離合器は、摩擦面に銅を混ぜ合わせた金属を用いることで、高い摩擦力を生み出します。これにより、強力な原動機の力でも、滑ることなく確実に車輪に伝えることができます。 金属離合器は、摩擦材に金属を用いているため、摩耗しにくいという利点もあります。競技車両は、しばしば高い回転数で原動機を回し、大きな力を伝達する必要があるため、離合器には大きな負担がかかります。金属離合器は、そのような過酷な条件下でも、安定した性能を発揮することが求められます。 高い摩擦力と耐久性を兼ね備えた金属離合器は、競技車両にとってまさに理想的な部品と言えるでしょう。優れた金属離合器は、運転者が原動機の力を最大限に引き出し、速さを競う上で大きな武器となります。原動機の性能向上と共に、離合器の技術開発もまた、日夜進歩を続けています。
駆動系

進化した四駆システム:ECハイマチック

ハイマチックは、油圧で作動する多板クラッチを使った差動制限機構を備えた、センターデフ方式の四輪駆動機構です。この機構は、前輪と後輪の回転数の違いを感知し、道路の状態に合わせて自動的に差動制限の強さを変えることで、高い走破性を実現しています。 ハイマチックの進化形であるECハイマチックは、これにコンピューター制御を加えることで、より高度な制御を可能にしました。従来のハイマチックでは、機械的な制御だけで差動制限の強さが調整されていましたが、ECハイマチックでは、車の速度やアクセルの踏み込み量、ブレーキの状態など、様々な情報をコンピューターが総合的に判断し、最適な差動制限の強さを瞬時に制御します。 これにより、乾いた路面から雪道、荒れた路面まで、どんな道路の状態でも安定した走行性能を発揮することが可能となりました。例えば、滑りやすい路面で片方のタイヤが空転した場合、すぐに差動制限の強さを高めることで、空転を抑え、駆動力をしっかりと路面に伝えます。 また、普段の走行時は、燃費を良くするため、四輪駆動ではなく二輪駆動で走り、必要な時だけ四輪駆動に切り替えることで、高い燃費性能も実現しています。ECハイマチックは、コンピューター制御によって、路面状況や走行状態に応じて、前後の駆動力配分を最適に制御します。これにより、ドライバーは特別な操作をすることなく、あらゆる路面状況で安全かつ快適な運転を楽しむことができます。雪道や凍結路面などの滑りやすい路面では、四輪駆動による安定した走行を実現し、乾いた舗装路では、二輪駆動で燃費性能を向上させる、といった具合です。 このように、ECハイマチックは、従来のハイマチックの優れた走破性をさらに進化させ、燃費性能も両立した、高度な四輪駆動機構と言えるでしょう。
駆動系

多板クラッチ:変速機の重要部品

多板つめ板とは、読んで字のごとく、複数のつめ板を重ね合わせて使うつめ板仕掛けのことです。薄い円盤状のつめ板を複数枚重ねて使うことで、一枚のものと比べて、大きな力を伝えることができます。このため、様々な機械に使われていますが、特に、自動的に変速する仕掛けを持つ車(自動変速機、略して自変機)で広く使われています。 自変機では、滑らかに変速するために、湿式多板つめ板が採用されています。「湿式」とは、油に浸かった状態で動くことを指します。つめ板同士が擦れ合うことで熱が発生しますが、油に浸かっていることで、この熱を素早く逃がすことができ、つめ板の持ちをよくする効果があります。また、油の圧力を使ってつめ板を押し付ける力を調整することで、より精密に動力の伝わり具合を操ることができます。 一枚のつめ板で大きな力を伝えようとすると、つめ板を強く押し付ける必要があり、急な繋がりや振動につながる可能性があります。しかし、多板つめ板の場合は、複数のつめ板で力を分担するため、一枚あたりの押し付け力を小さくできます。これにより、滑らかな繋がりを実現し、変速時のショックを和らげることができます。 油圧でつめ板の押し付け力を調整することで、エンジンの回転数と車の速度を滑らかに一致させることができます。これは、特に発進時や変速時に重要です。急発進や変速ショックを抑え、乗員に快適な乗り心地を提供します。 つまり、多板つめ板は、自変機を持つ車にとって、滑らかな変速という重要な役割を担っている、縁の下の力持ちと言えるでしょう。
駆動系

四輪駆動を支える技術:ハイレスポンスデュアルポンプ

近年、雪道やぬかるんだ道といった様々な路面状況をものともせず走破できる四輪駆動車は、多くの人々に選ばれるようになってきました。舗装された道路でも安定した走りを実現するため、普段使いの車としても人気を集めています。今回は、本田技研工業が誇る四輪駆動の技術の核心とも言える、「ハイレスポンスデュアルポンプ」について詳しく説明します。この機構は、運転手が意識することなく、路面状況に合わせて最適な駆動力を四輪に配分する、まさに縁の下の力持ちです。 従来の四輪駆動車は、前輪と後輪に動力を伝えるための装置であるプロペラシャフトやトランスファーを用いて、エンジンの動力を前後輪に分配していました。しかし、路面状況の変化に瞬時に対応することは難しく、滑りやすい路面で予期せぬ挙動を示すこともありました。ハイレスポンスデュアルポンプは、この課題を解決するために開発された画期的な機構です。後輪の左右それぞれに独立した油圧ポンプを備え、電子制御によって左右の後輪への駆動力をきめ細かく調整することができます。 例えば、カーブを曲がるとき、外側のタイヤにはより多くの駆動力が必要となります。ハイレスポンスデュアルポンプは、この状況を瞬時に感知し、外側の後輪に大きな駆動力を伝え、内側の後輪への駆動力を抑えることで、スムーズで安定した旋回を可能にします。また、雪道やぬかるみなど、タイヤがスリップしやすい状況でも、グリップを失っているタイヤへの駆動力を抑え、グリップを保っているタイヤへ駆動力を集中させることで、スタックを回避し、スムーズな脱出を助けます。 ハイレスポンスデュアルポンプは、運転手が特別な操作をしなくても、常に最適な駆動力を四輪へ配分し、あらゆる状況下で安定した走行を実現します。まるで路面を見通しているかのような、優れた走破性と安定性は、まさに本田技研工業の技術力の結晶と言えるでしょう。