車両の慣性重量と燃費測定
車は、動き出そうとするときや、速度を変えようとするとき、その変化に抵抗しようとします。この性質を慣性といい、物の動かしにくさを表す量を慣性重量といいます。慣性重量が大きいほど、動かしにくく、また、動きを止めにくくなります。これは、実際に車を押してみれば実感できるでしょう。小さな車よりも大きな車の方が、動かすのに大きな力が必要です。
車の燃費を測る試験では、屋内に設置された回転する太い円柱の上で車輪を回転させて測定します。この装置をシャーシダイナモメーターと言います。しかし、この装置の上で車を走らせるのと、実際の道路を走らせるのとでは、車にかかる抵抗が違います。実際の道路では、空気抵抗や路面の摩擦抵抗など、様々な抵抗を受けます。これらの抵抗をシャーシダイナモメーター上で再現するためには、工夫が必要です。
そこで登場するのが車両等価慣性重量という考え方です。これは、回転する円柱の負荷を調整することで、実際の道路と同じような抵抗を再現する技術です。車の重さや形状、タイヤの種類などによって、抵抗の大きさは変わるため、車両等価慣性重量は車ごとに異なります。この重量を正しく設定することで、実際の道路で走っている時と同じような負荷を車にかけ、より現実に近い燃費を計測することができます。
車両等価慣性重量は、いわば仮想の重さで、シャーシダイナモメーター上でのみ意味を持つものです。この仮想の重さを用いることで、様々な条件下での燃費を正確に測ることが可能になり、より環境に優しく、燃費の良い車の開発に役立っています。平たく言えば、試験装置上で、実際の道路を走っているのと同じような状況を作り出すための、大切な工夫の一つと言えるでしょう。