消えた車内暖房:排気式とは?
かつて、空冷の動力装置を積んだ車には、排気式の暖房装置がよく使われていました。この装置は、動力の燃えかすである排気ガスを利用して車内を暖めるという仕組みです。
具体的には、排気ガスが出ていく管の一部に熱交換器と呼ばれる装置を取り付けます。熱い排気ガスがこの熱交換器の中を通る時に発生する熱を、車内に送り込むのです。普段私たちが家で使っているようなお湯を使った暖房とは違い、動力装置の排気ガスを直接熱源として使うのが大きな特徴です。排気ガスは非常に高温なので、理屈の上ではとても効率よく車内を暖めることができるはずです。
しかし、実際にはいくつかの問題点がありました。空気は水に比べて熱を伝える力が弱いため、十分な暖房効果を得るのが難しかったのです。冬場に冷えた手を温風で温めるよりも、お湯で温める方が早く温まるのと同じです。また、熱交換器に不具合が生じると、排気ガスが車内に漏れてしまう危険性もありました。排気ガスには、一酸化炭素など人体に有害な物質が含まれています。もしこれらの有害物質が車内に漏れてしまうと、乗っている人の健康に深刻な影響を与える可能性があります。そのため、安全性をきちんと確保するための対策が欠かせませんでした。
排気式の暖房装置は、構造が単純で費用も安く済むという利点がありましたが、暖房能力の低さと安全性への懸念から、次第にお湯を使った暖房装置にとって代わられていきました。現在では、ほとんどの車でお湯を使った暖房装置が採用されています。