赤外分光で車の未来を照らす
物質を構成する成分や構造を解き明かす方法の一つに、赤外分光光度法と呼ばれる手法があります。この手法は、物質に赤外線を照射し、その吸収のされ方を調べることで、物質の正体を明らかにするものです。
私たち人間の目には見えない赤外線ですが、太陽の光にも含まれる身近な光です。この赤外線を物質に当てると、物質を構成する分子が振動を始めます。分子は原子同士が結合してできていますが、この結合はまるでバネのように伸縮したり、揺れ動いたりしています。赤外線が当たると、このバネのような結合がさらに激しく振動するのです。
重要なのは、この振動の仕方が分子ごとに異なる点です。水分子は水の分子特有の振動の仕方を示し、二酸化炭素分子は二酸化炭素分子特有の振動の仕方を示します。例えるなら、それぞれの分子は固有の音色を持つ楽器のようなものです。太鼓を叩けば太鼓の音が、笛を吹けば笛の音が鳴るように、赤外線を当てると、それぞれの分子は固有の振動を始めます。この振動の違いが、赤外線の吸収のされ方の違いとなって現れるのです。
赤外分光光度計と呼ばれる装置を使うと、どの波長の赤外線がどれくらい吸収されたかを詳しく調べることができます。得られたデータは、まるで分子の指紋のようなものです。この指紋を既知の分子の指紋と照合することで、未知の物質が何でできているのかを特定できるのです。赤外分光光度法は、プラスチック、ゴム、塗料など様々な物質の分析に利用されており、私たちの生活を支える重要な技術の一つと言えるでしょう。