ミラーサイクル:未来のエンジン?
車は、燃料を燃やして走る機械です。燃料を燃やすための装置を機関と呼び、多くの車はピストン機関を使っています。ピストン機関は、シリンダーと呼ばれる筒の中でピストンが上下に動くことで動力を生み出します。ピストンが上に向かう時、シリンダー内の空気と燃料の混合気は圧縮されます。そして、圧縮された混合気に点火すると、爆発が起きてピストンは下へと押し下げられます。この動きが繰り返されることで車は走ります。ミラーサイクルは、このピストン機関の働きをより効率的にする技術の一つです。アメリカのラルフ・H・ミラー氏が1947年に考え出したこの技術は、吸気と圧縮、膨張と排気の4つの工程を調整することで、燃料の消費を抑えながら動力を得ることを目指しています。
通常のピストン機関では、ピストンが下がる時に空気と燃料を吸い込み、上がる時に圧縮します。この時、吸い込んだ混合気をどのくらい圧縮するのかを示すのが圧縮比です。そして、爆発後にピストンが押し下げられる時の膨張の度合いを示すのが膨張比です。通常、この圧縮比と膨張比は同じ値になっています。しかし、ミラーサイクルでは、吸気バルブを閉じるタイミングを調整することで実質的な圧縮比を膨張比よりも小さくします。これは、ピストンが下がりきってから少しの間、吸気バルブを開いたままにすることで実現できます。または、ピストンが上がり始めてからも吸気バルブを少しの間開けておくことでも実現できます。
こうして実質的な圧縮比を小さくすることで、混合気を圧縮する際に必要なエネルギーが少なくなります。これはポンピングロスと呼ばれるエネルギーの無駄を減らすことにつながり、結果として熱効率が向上します。熱効率が向上するということは、同じ量の燃料でより多くの動力を得られるということです。つまり、燃費が良くなるのです。ミラーサイクルは、複雑な制御が必要となる技術ではありますが、燃料消費を抑え、環境への負荷を減らすという点で、現代の車にとって重要な技術と言えるでしょう。