ウイッシュボーンサスペンション:乗り心地の秘密
鳥の鎖骨、すなわち叉骨(さこつ)に形が似ていることから名付けられたのが、叉骨懸架(さこつけんか)、いわゆるウイッシュボーン式懸架です。空を自由に飛ぶ鳥の叉骨は、軽くて丈夫という、相反する二つの特性を兼ね備えています。この優れた点を自動車の懸架(けんか)構造に応用したのが始まりです。
初期の叉骨懸架は、上下二本の腕で構成されていました。ちょうど鳥の叉骨のように、二本の腕が中央で連結され、それぞれの端が車体と車輪を繋いでいます。この構造は路面からの衝撃を効果的に吸収し、乗員に快適な乗り心地を提供します。路面の凹凸を捉えた車輪が上下に動くと、二本の腕がその動きに合わせて連動し、衝撃を和らげるのです。まるで鳥が羽ばたくように、しなやかに路面の変化に対応します。
現在では、技術の進歩と共に、より複雑な構造を持つ叉骨懸架も開発されています。複数のアームを用いたり、電子制御技術と組み合わせたりと、多様な方式が登場しています。しかし、基本的な原理は初期の頃から変わっていません。二本の腕で車輪を支え、路面からの衝撃を吸収するという、鳥の叉骨から着想を得た画期的な発明は、今もなお自動車の乗り心地向上に大きく貢献しているのです。まさに、自然界の優れた構造を模倣し、人間社会の技術革新に繋げた好例と言えるでしょう。