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水噴射:過去の技術を振り返る
車は、空気と燃料を混ぜて爆発させることで動力を得ています。この爆発は、エンジンの中の小さな部屋(燃焼室)で行われ、ピストンと呼ばれる部品を動かします。この時、燃焼室の中の温度は非常に高くなります。高温になると、燃料がうまく燃えず、有害な物質が発生したり、エンジンの部品が傷んだりすることがあります。そこで、かつて考えられたのが水噴射という技術です。
水噴射とは、エンジンの中に水を噴きかける技術のことです。具体的には、空気をエンジンに送り込むための管(吸気管)に水を霧状に噴射します。高温になった燃焼室に水が噴射されると、水は瞬時に蒸発します。水が蒸発するには熱が必要です。この熱は周りの空気や燃焼室の壁などから奪われます。これを気化熱と呼びます。気化熱によって燃焼室の温度が下がり、有害な物質の発生を抑えたり、エンジンの部品を保護したりする効果が期待されました。
まるで夏の暑い日に道路に水をまくように、エンジン内部を冷やす効果があるのです。しかし、この技術は現在では使われていません。なぜなら、水を噴射するための装置が複雑で、故障しやすいという問題があったからです。また、水の管理も難しく、常にきれいな水を供給する必要がありました。さらに、技術の進歩により、水噴射以外の方法でエンジンを冷却したり、有害な物質の発生を抑えたりすることができるようになったことも、水噴射が実用化されなかった理由です。とはいえ、水噴射は、エンジンの温度を下げるという発想から生まれた興味深い技術と言えるでしょう。