姿を消した技術:クランク室貯蔵式

姿を消した技術:クランク室貯蔵式

車のことを知りたい

先生、『クランク室貯蔵式』って、どんなものですか?

車の研究家

簡単に言うと、エンジンのクランクケースという空間を使って、揮発したガソリンを一時的に貯めておく仕組みだよ。貯めたガソリンは後でエンジンで燃やすんだ。

車のことを知りたい

へえ、便利な仕組みですね!でも、今は使われていないんですよね?

車の研究家

そうなんだ。逆火といって、エンジンの中で火が燃え広がってしまう危険性があったからなんだ。今は、活性炭を使ってガソリン蒸気を貯める方法が主流になっているよ。

クランク室貯蔵式とは。

エンジンの一部であるクランクケースという空間を使って、燃料タンクや空気を取り込む部分で蒸発したガソリンの蒸気を一時的にためておく装置について説明します。この装置は、ためておいたガソリンの蒸気をエンジンに吸い込ませて燃やす仕組みです。安価に作れるという利点がありましたが、エンジン内部で異常燃焼が起きた際に引火する危険性があったため、現在ではほとんど使われていません。代わりに、活性炭を使ってガソリンの蒸気をためる方式が主流となっています。このクランクケースを利用した方式は、かつてクライスラーという会社が開発したと言われています。

燃料蒸発の抑制

燃料蒸発の抑制

自動車の心臓部であるエンジンは、ガソリンを燃焼させることで動力を生み出します。しかし、ガソリンは揮発性が高く、常温でも気体になりやすい性質を持っています。この蒸発したガソリンが大気中に放出されると、光化学スモッグの原因となる有害物質が発生し、環境問題を引き起こします。そのため、ガソリンの蒸発をいかに抑えるかが、自動車開発における重要な課題となっています。

燃料蒸発ガス抑制装置は、この問題に対処するために開発された装置です。様々な方式がありますが、その一つに「クランク室貯蔵式」と呼ばれるものがあります。この方式は、エンジンのクランク室を利用して、蒸発したガソリンを一時的に貯蔵する仕組みです。エンジンが停止している間、燃料タンクや燃料配管から蒸発したガソリンは、配管を通じてクランク室へと導かれます。クランク室はエンジンオイルで満たされているため、蒸発したガソリンはオイルに溶け込みます。そして、エンジンが始動すると、クランク室内のオイルと混ざったガソリンは、吸気と共に燃焼室へと送られ、燃料として利用されます。

この方式の利点は、特別な部品を必要とせず、比較的シンプルな構造で燃料蒸発を抑制できる点です。また、蒸発したガソリンを回収して燃料として再利用するため、燃費向上にも貢献します。

しかし、オイルにガソリンが混ざることでオイルの劣化が早まる可能性があるため、オイル交換の頻度には注意が必要です。また、寒冷地など気温が低い環境では、蒸発したガソリンがオイルに溶け込みにくく、始動性に悪影響を与える可能性もあるため、対策が必要です。

自動車メーカーは、燃料蒸発ガス抑制装置以外にも、燃料タンクの材質改良や密閉性の向上など、様々な対策を講じています。これらの技術開発により、自動車からの排出ガスは大幅に削減され、大気環境の改善に大きく貢献しています。今後も更なる技術革新により、より環境に優しい自動車開発が期待されています。

項目 説明
ガソリンの蒸発問題 ガソリンは揮発性が高く、大気中に放出されると光化学スモッグの原因となる。
燃料蒸発ガス抑制装置 ガソリンの蒸発問題に対処するための装置。
クランク室貯蔵式
  • エンジンのクランク室を利用して蒸発ガソリンを一時的に貯蔵。
  • エンジン停止中は、蒸発ガソリンがクランク室に導かれオイルに溶け込む。
  • エンジン始動時に、オイルと混ざったガソリンが吸気と共に燃焼室へ送られ燃料として利用される。
クランク室貯蔵式の利点
  • シンプルな構造。
  • 燃費向上。
クランク室貯蔵式の欠点
  • オイルの劣化促進。
  • 寒冷地での始動性悪化。
その他の対策 燃料タンクの材質改良や密閉性の向上など。

クランク室貯蔵式の仕組み

クランク室貯蔵式の仕組み

原動機付き自転車などでよく使われているクランク室貯蔵式は、燃料の蒸気を一時的に溜めておく場所として、原動機のクランク室を利用した仕組みです。クランク室とは、原動機の重要な部品であるクランク軸が回転している空間のことを指します。通常、この空間には原動機油が入っており、クランク軸の滑りを良くしたり、冷やしたりする役割を担っています。

クランク室貯蔵式では、このクランク室を燃料蒸気の保管場所として活用します。燃料タンクや吸気系から蒸発したガソリンの蒸気は、いったんこのクランク室に集められます。燃料蒸気は空気と混ざりやすい性質を持つため、そのままにしておくと大気中に逃げてしまいます。クランク室貯蔵式は、この蒸気を逃さず一時的に保管することで、大気汚染を防ぐ役割を果たします。

原動機が動くときには、ピストンが上下運動を繰り返します。ピストンが下がる吸気工程では、クランク室内の圧力が下がります。この時、燃料タンクから燃料を吸い込むのと同時に、クランク室に貯蔵されていた燃料蒸気も吸気管へと送り込まれます。こうして吸気管に入った燃料蒸気は、空気と混ぜ合わされ、原動機内で燃焼されます。

クランク室貯蔵式は、構造が簡素で費用を抑えられるという利点があります。部品点数が少なく、仕組みも単純なため、小型の原動機によく採用されています。特に、原動機付き自転車のような比較的小型の乗り物には、この方式が多く用いられています。このように、クランク室貯蔵式は、燃料蒸気を有効活用し、大気汚染を抑制しながら、簡素な構造で原動機の効率的な運転に貢献しています。

かつての主流技術

かつての主流技術

かつて、車の燃料系統から発生する蒸発ガスを抑制するための装置として、広く使われていたのが「クランク室貯蔵式」という仕組みです。この仕組みは、その名の通り、エンジン内部のクランク室と呼ばれる空間を利用して、燃料の蒸発ガスを一時的に貯蔵するものです。

この方式の最大のメリットは、構造が単純であるという点です。複雑な部品や高度な制御装置を必要としないため、製造にかかる費用を抑えることができました。コストを抑えることができるという利点は、自動車メーカーにとって大きな魅力でした。そのため、一時期は多くの車にこの装置が搭載され、燃料蒸発ガス抑制装置の主流となっていました。

特に、アメリカの自動車メーカーであるクライスラー社がこの技術の開発と普及に大きく貢献したと言われています。当時、大気汚染が深刻な問題となっており、各国で環境規制が強化されつつありました。クライスラー社は、いち早くこの問題に取り組み、クランク室貯蔵式を積極的に採用することで、排出ガス規制への適合を目指しました。

クランク室貯蔵式は、当時としては非常に画期的な技術でした。燃料の蒸発ガスを大気中に放出することなく、エンジン内部に一時的に貯蔵し、その後、燃焼させて処理することで、大気汚染の抑制に大きく貢献しました。この技術は、クライスラー社だけでなく、他の自動車メーカーにも大きな影響を与え、その後の燃料蒸発ガス抑制装置の開発に繋がる重要な一歩となりました。現在では、活性炭吸着缶方式といった、より高度な技術が主流となっていますが、クランク室貯蔵式は、環境規制に対応した初期の重要な技術として、自動車の歴史にその名を刻んでいます。

項目 内容
方式名称 クランク室貯蔵式
目的 燃料系統からの蒸発ガス抑制
仕組み エンジン内部のクランク室に燃料蒸発ガスを一時的に貯蔵
メリット 構造が単純で製造コストが低い
開発・普及 クライスラー社が大きく貢献
歴史的意義 環境規制に対応した初期の重要な技術。当時としては画期的で、後の技術開発に影響を与えた。
現状 現在は活性炭吸着缶方式が主流

安全性への懸念

安全性への懸念

初期の自動車において、燃料をエンジンに供給する方式の一つとして、クランク室貯蔵式と呼ばれる方法が採用されていました。この方式では、エンジンのクランク室と呼ばれる部品を燃料タンクとして利用していました。クランク室は、エンジンの主要な回転部品であるクランクシャフトが収められた空間です。この方式は構造が単純であるため、製造コストを抑えることができました。また、燃料ポンプのような複雑な部品も不要であったため、整備の手間も軽減できました。

しかしながら、このクランク室貯蔵式には重大な欠陥がありました。それは、逆火の危険性です。逆火とは、エンジン内部の燃焼室で発生した炎が、本来とは逆方向に吸気系統を遡ってクランク室にまで達してしまう現象です。クランク室にはガソリンの蒸気が充満しているため、そこに炎が達すると爆発の危険性がありました。この爆発はエンジンに深刻な損傷を与えるだけでなく、車両火災を引き起こす可能性もありました。

逆火の発生原因はいくつか考えられます。例えば、エンジンの点火時期が適切でない場合や、混合気が薄すぎる場合に起こりやすくなります。また、エンジンの回転数が低い状態でも逆火が発生しやすいため、特にエンジン始動時などは注意が必要でした。

こうした安全上の懸念から、クランク室貯蔵式は次第に廃れていくことになりました。その後、より安全な燃料供給方式として、燃料タンクから燃料ポンプを用いて燃料をエンジンに送り込む加圧式燃料供給方式が主流となりました。現在では、電子制御燃料噴射装置など、より精密で効率的な燃料供給システムが開発され、自動車の安全性と性能は飛躍的に向上しています。

項目 内容
方式名称 クランク室貯蔵式
仕組み エンジンのクランク室(クランクシャフトが収められた空間)を燃料タンクとして利用
メリット 構造が単純で製造コストが低い、燃料ポンプなどの複雑な部品が不要で整備の手間が少ない
デメリット/欠陥 逆火の危険性が高い(燃焼室の炎が吸気系統を遡りクランク室に達し、ガソリン蒸気に引火して爆発する可能性がある)
逆火発生原因 点火時期の不適切、混合気が薄すぎる、エンジンの回転数が低い(特に始動時)
結果 安全上の懸念から廃れ、加圧式燃料供給方式が主流になった

活性炭貯蔵方式への移行

活性炭貯蔵方式への移行

自動車の燃料であるガソリンは、常温でも蒸発しやすく、気化したガソリン(燃料蒸発ガス)は大気汚染の原因となります。そこで、燃料蒸発ガスを大気に放出させないための装置として、燃料蒸発ガス抑制装置が搭載されています。かつて主流だったクランク室貯蔵式に代わり、現在では活性炭貯蔵式が広く採用されています。

活性炭貯蔵式は、その名の通り活性炭を用いて燃料蒸発ガスを貯蔵する仕組みです。活性炭とは、炭を高温で処理することで作られる、微細な穴が無数に空いた多孔質の物質です。この無数の穴が、まるでスポンジのようにガソリン蒸気を吸着します。活性炭は、表面積が非常に大きく、少量でも多くのガソリン蒸気を吸着できるため、燃料蒸発ガス抑制装置に最適な材料と言えるでしょう。

エンジンを始動すると、燃料タンク内のガソリンは、エンジンの熱や外気温の影響を受けて蒸発し、燃料蒸発ガスが発生します。この燃料蒸発ガスは、配管を通じて活性炭 canister に送られ、活性炭に吸着されて貯蔵されます。そして、エンジンが稼働している時には、吸気管から新鮮な空気が canister 内を通過します。この空気の流れによって、活性炭に吸着されていたガソリン蒸気は脱着され、吸気管を通じてエンジンに送り込まれ、燃料として燃焼されます。

活性炭貯蔵式は、クランク室貯蔵式と比べて、逆火の危険性が低いという大きな利点があります。逆火とは、吸気管内の混合気が燃焼室の外で燃えてしまう現象で、エンジンに深刻な損傷を与える可能性があります。クランク室貯蔵式では、燃料蒸発ガスがクランク室に貯蔵されるため、逆火の危険性がありました。一方、活性炭貯蔵式では、燃料蒸発ガスが活性炭 canister に貯蔵され、吸気管とは隔離されているため、逆火の危険性を大幅に低減できます。このように、安全性と環境性能の両立を実現した活性炭貯蔵式は、現在の自動車にとって欠かせない装置となっています。

項目 内容
燃料蒸発ガス抑制装置の必要性 ガソリンの蒸発による大気汚染を防ぐため
主流の方式 活性炭貯蔵式
活性炭の性質 多孔質で表面積が大きく、ガソリン蒸気を吸着
活性炭貯蔵式の仕組み
  1. ガソリン蒸発 -> 活性炭キャニスターに貯蔵
  2. エンジン稼働 -> 新鮮な空気がキャニスターを通過
  3. ガソリン蒸気脱着 -> 吸気管へ -> 燃料として燃焼
活性炭貯蔵式の利点 逆火の危険性が低い
クランク室貯蔵式の欠点 逆火の危険性がある
活性炭貯蔵式のメリット 安全性と環境性能の両立

技術の変遷

技術の変遷

動力源の変化から安全装置の進化、環境への配慮に至るまで、車は常に技術革新の最前線を走り続けてきました。その変遷を語る上で、燃料蒸発ガス抑制技術の進化は象徴的な出来事の一つと言えるでしょう。

かつて主流だったクランク室貯蔵式は、エンジン内部のクランク室を利用して燃料蒸発ガスを一時的に貯蔵し、再び燃焼室へと送り込む仕組みでした。この方法は、構造が簡素で費用を抑えられるという利点がありました。しかし、燃料蒸発ガスが漏れ出す危険性が課題として残っていました。

この課題を解決するために開発されたのが、活性炭貯蔵方式です。活性炭は、微細な穴が無数に空いた構造を持つため、燃料蒸発ガスを効率的に吸着することができます。活性炭に吸着された燃料蒸発ガスは、エンジンの運転状況に応じて再び燃焼室へと送り込まれ、無駄なくエネルギーとして利用されます。この方式は、クランク室貯蔵式と比べて燃料蒸発ガスの漏れ出しを大幅に抑制することができ、大気汚染の防止に大きく貢献しました。

活性炭貯蔵方式への移行は、安全性と環境性能の両立を目指す自動車技術の進化を象徴する出来事と言えるでしょう。かつて主流だった技術が、新たな技術に置き換えられることは珍しくありません。技術は常に進化を続け、より良いものを目指して進歩していくのです。クランク室貯蔵式は、現在ではほとんど使われていませんが、燃料蒸発ガス抑制技術の礎を築いたという点で、その歴史的意義は大きいと言えるでしょう。

近年の自動車技術の進化は、電動化技術や自動運転技術といった分野に注目が集まっています。これらの技術も、安全性と環境性能の向上に大きく貢献することが期待されています。技術の変遷は留まることなく、これからも私たちの生活をより豊かにしていくことでしょう。

方式 説明 メリット デメリット 現状
クランク室貯蔵式 エンジン内部のクランク室を利用して燃料蒸発ガスを一時的に貯蔵し、再び燃焼室へと送り込む。 構造が簡素、費用を抑えられる 燃料蒸発ガスが漏れ出す危険性 ほとんど使われていない
活性炭貯蔵方式 活性炭に燃料蒸発ガスを吸着させ、エンジンの運転状況に応じて再び燃焼室へと送り込む。 燃料蒸発ガスの漏れ出しを大幅に抑制、大気汚染の防止に貢献 記載なし 主流